A car breaks.
車が壊れる。
これは主語の状態のことを説明している自動詞表現です。
主語自身が壊れている状態に「なる」という意味です。
しかし「break」には「壊れる」という主語自身の状態を説明する自動詞表現の他に、「壊す」という他者の状態を変える他動詞表現もあります。
A bad driver breaks a car.
運転の下手な人が車を壊す。
主語の「運転の下手な人」が自分以外の存在(ここでは車)を壊れている状態に「する」という意味です。
「壊れる」はその状態になる当の本人を主語にした下位の立場からのミクロ的表現。
「壊す」はその状態を作り出す原因を主語にした上位の存在の立場からのマクロ的表現。
このような下位と上位のどちらの立場からの表現方法も兼ね備えている動詞のことを「二層構造の動詞」と呼んでいます。
日本語の場合は壊れる壊すと言葉自体が変わりますが、英語はどちらも「break」という同じ形のままで表します。
主語自身の状態のことを言っているのか、他者の状態を変えることを言っているのかは、動詞の後に目的語が続くかどうかで判断します。
「The car breaks.」で文が終わっているなら、壊れている状態なのは主語の車自体ですが、動詞の後に別の名詞が続いたら、壊れている状態になるのはそちらということです。
「The car breaks the wall.」なら、壊れている状態になるのは「break」の後ろの「the wall」の方です。
動詞の後に名詞が続いたことで、主語の車は壊れる側ではなく壊す側になりました。
いわば下位の立場から上位の立場へと格上げしました。
動詞の後に目的語が続かなければ、動詞の持つ力は主語に返ってきますが、目的語が続けば動詞の力がそちらへと流れます。
これが二層構造の動詞の仕組みです。
「stick」も二層構造の動詞です。
しかし「stick」は「break」とは異なる点があります。
「break」は「break」の状態になる本人と、あとはその状態を作り出す上位の存在さえいれば、基本それ以外には何も必要ありません。
なので「A car breaks.」のように、下位の立場から表現するときには主語さえいればそれで充分です。
主語一人で「break」の状態を成立させることができます。
しかし「stick」はそうはいきません。
主語本人だけでは「stick」の状態を成立させることができないんです。
くっつくという状態を成立させるには、何かしらくっつく相手が必要になります。
くっつく相手なくして、自分一人でくっついている状態にはなれない。
The flyer sticks.
[チラシがくっつく]
これでもまあいいんですが、文章上に記されてはいないものの、チラシは必ず何かしらにくっついているはずです。
なので、以下の文のようにその相手にも言及した方が自然です。
The flyer sticks to the utility pole.
[チラシが電柱にくっつく]
ちなみに、上位の存在の立場からこれを表現すると、
Someone sticks the flyer to the utility pole.
[誰かが電柱にチラシをくっつける]
のようになります。
ここで一つ、注意しなければいけない点があります。
自分の状態を変えるための相手に対しては、必ず前置詞を付けなければいけないということです。
でなければ、意味が変わってしまいます。
The flyer sticks to the utility pole.
この文章は、動詞「stick」の持つ力の流れが、前置詞「to」で止まっています。
そのため、動詞「stick」の力の流れは主語に返ってきて、主語のチラシ自体がくっついている状態になることを意味します。
電柱はそうなるための助っ人的存在です。
では、前置詞を付けなかったらどうなるか。
The flyer sticks the utility pole.
動詞の後に前置詞抜きで直接相手が置かれています。
そのため、動詞「stick」の持つ力が主語の「flyer」に返ってこず、そのまま後ろの「utility pole」に流れてしまいます。
その結果、「utility pole」がくっついている状態になる、という意味になってしまいます。
そして主語の「flyer」は上位の立場へと昇格して、くっついている状態になる側ではなく、他者をくっついている状態にする側に変わります。
つまり、チラシが電柱を何かにくっついている状態にする、という意味になってしまいます。
チラシ自体がくっついている状態になることを言いたい場合は、前置詞を置いて動詞の持つ力を自らに返す必要があります。
そうすることで、上位の立場になることなく、下位の立場のまま自身の状態のことを表現することができます。
下位の立場からの自動詞表現において、「utility pole」という存在は主語にとって行為の対象ではなく、主語が「stick」の状態になるための協力者です。
いわば、協力者「utility pole」の存在を利用することで自分が「stick」の状態になる、ということです。
それが「The flyer sticks to the utility pole.」という自動詞表現です。
本来、相手を必要とする行為は他動詞のはずです。
しかし中には「stick」のように相手の存在が必要な自動詞も存在します。
行為を成立させるために相手が必要なのが他動詞で、自分の状態を変えるために相手が必要なのが自動詞です。
日本語でいうところの「人生を楽しむ」、「人生を悔やむ」のように助詞を『を』で表現する行為が他動詞です。
「電柱にくっつく」、「電柱からはがれる」のように助詞を『を』以外で表現する行為が自動詞です。
「mix」という動詞も「stick」と同じ性質を持っています。
「mix」という行為を成立させるためには何が必要か。
まずは、混ざる状態になる本体。
例えばそれを牛乳としましょう。
牛乳が自ら自分で混ざるわけではありません。
誰かしらがそれをやるわけです。
例えばそれを太郎君としましょう。
牛乳が太郎君という上からの操作を受けて混ざることになる。
しかし、それだけではまだ足りません。
たとえば、「かき混ぜる」なら、これだけで成立します。
太郎君が牛乳をかき混ぜる。
これでOKです。
しかし英語の「mix」はかき混ぜるという意味ではありません。
それは「stir」という別の英単語が担当しています。
Taro stirs milk.
[太郎君は牛乳をかき混ぜる]
「mix」は二つのものが一つになることを意味しています。
なので太郎君と牛乳だけではまだ足りない。
牛乳が混ざるための相手が必要です。
仮にそれをコーヒーとしましょう。
上位存在の太郎君、本体の牛乳、相手のコーヒー、これでやっと「mix」という行為が成立します。
Taro mixes milk with coffee.
[太郎君は牛乳をコーヒーと混ぜます]
本体の牛乳の立場からすると、まず上に太郎君という上位存在がおり、そして横には相手としてのコーヒーがいます。
相手のコーヒーは、自分と共に上位存在の太郎君からの操作を受ける同次元の間柄です。
このように三つの存在が、「上、下、下」といった配置で存在しています。
このような動詞のことを「三格配置の動詞」と呼んでいます。
三格配置の動詞は、三つの存在が配置されているという点で、第4文型を作る動詞と似ています。
しかし「mix」や「stick」がそれらと違うのは、上位と下位の両方の立場からの表現を兼ね備えているという点です。
つまり、三格配置の動詞は二層構造になっているという点で、ただの第4文型を作る動詞とは異なる性質を持っていると言えます。