結局のところ動詞というのは、その行為が何に重きを置いているのかが全て、と言えるでしょう。
例えば会話系の動詞「converse」、「talk」、「chat」、「chatter」、これらの動詞は共同主体型の自動詞です。
俗にいう相互動詞です。
行為の主体が複数存在していることを前提にしており、その複数の主体間での言葉のやり取りに重きを置いています。
内容には重きを置いていない。
だから内容はただの追加情報となり、前置詞を伴う。
これに対して「discuss」という動詞はどうか。
議論するという意味ですが、この行為も「talk」らと同じで複数の主体が必要な共同主体型です。
ただ、会話とは違って「議論」という言葉には、内容に深く重きを置いている響きがある。
つまり「discuss」という動詞にとって議題という名の内容はただの追加情報ではなく、「discuss」という行為自体を成立させるために不可欠な存在であるということです。
「discuss」自体に議題という内容を受け入れるだけの度量があるとでも言いましょうか。
逆に言うと議題なしでは自立できないと言いましょうか。
だから「discuss」は前置詞なしで直接内容を目的語に取ることができる他動詞となります。
We need to discuss the problem with her.
[我々はその問題を彼女と議論する必要がある]
「discuss」の語源は「振って粉々にする」です。
対象もなしに振って粉々にするなんて行為はできません。
議題もなしに「discuss」できないのと同じです。
似たような動詞に「argue」というのがあります。
「discuss」が、複数存在する主体が互いに平等な立場から話し合い、その結果として議題に対する答えを共に見つけようとする建設的な姿勢があるのに対し、「aurgue」は自分の主張を相手にぶつけるようなイメージがあります。
この「自分の意見を主張する」という意味合いが強い場合はもはや共同主体型ではなくなるので、他動詞性が強くなり、動詞だけでは文が成立しません。
そこで文を成立させるべく、主張すべき内容が行為の対象(目的語)となります。
She argued the case for changing the law.
[彼女は法改正のための根拠を主張した]
「discuss」が共同主体型ながらも話し合う内容に重きを置いた結果、他動詞化したのに対し、「argue」は単純に共同主体型で無くなったが故に他動詞化します。
逆に言うと、一方的に意見を主張するのではなく、相手と意見を互いにぶつけ合うという相互関係の意味合いで「argue」を使用した場合、共同主体型の性質が働いて自動詞化します。
「言い争う」という意味ですね。
内容に関係なく、複数の主体が「言い争っている状態になる」という点に重きが置かれいます。
それゆえ目的語なしで文が成立し、それ以外のことが追加情報となり、前置詞を必要とします。
He was arguing with my brother about how to spend the money.
[彼は私の兄とそのお金の使い道について言い争っていました]
「argue」には「意見を主張する」というほど立派ではない、ただ「文句を言う」というそんな意味もあります。
この場合においても、文句の内容ではなく「ぶうたれている状態」に重きが置かれることになります。
つまり自動詞として機能します。
そのため動詞のみで文が成立し、それ以外は追加情報となり前置詞を伴います。
Your father knows best. Don't argue with him.
[君のお父さんが一番よく知っている、文句を言わないで]
またもう一つ同じような動詞に「debate」があります。
「discuss」とよく似ていますが、「debate」の方がかしこまった正式な感じがします。
賛成派反対派に分かれていることを前提に議題について意見を交わしあうのが「debate」ですね。
議論すべきテーマが疑問詞節の形で目的語になります。
We debated whether it's right to clone an individual.
[我々は一個体を複製するのが正しいか否か討論しました]
疑問詞節以外にも一般名詞を目的語に取ることもあります。
論争の対象となる問題点という意味の「issue」がその代表格です。
名詞で議題を表す場合は「about」や「on」などの前置詞が使わることもよくあります。
前置詞を置く置かないの基準はあってないようなもんです。
疑問詞節の前に「about」が置かれている文章だって見たことがあります。
I debated with them on the future of democracy.
[民主主義の未来について私は彼らと討論しました]
「debate」に関しては自動詞なのか他動詞なのかがはっきりしない動詞です。
上の文章なんかは文法上は自動詞扱いです。
討論している状態に重きを置いているのか、討論している内容に重きを置いているのか、どちらにも転びうるのが「debate」という動詞です。
そんなアンニュイな動詞に出会うのもまた一興。