相互動詞の「with」の有無
英語の相互動詞には、行為を共に成立させている相手に対して前置詞「with」を付けるのか付けないのか問題というのが存在しています。
「fight」は付きます。
Antonio fought with Muhammad Ali.
[アントニオはモハメドアリと戦った]
「meet」は付きません。
Helen keller met Ann sulliivan when she was seven years old.
[ヘレンケラーは7歳の時、アンサリヴァンに出会いました]
「talk」は付きます。
He says he talks with aliens every day.
[彼は毎日宇宙人と会話しているそうです]
「border」は付きません。
Ukraine borders Russia.
[ウクライナはロシアと隣接しています]
「mix」は付きます。
No matter what you do, water will never mix with oil.
[何をしたって水が油と混ざったりはしない]
前置詞が付く付かないの違いは何か。
主体らの積極性の強さ、意図的か否か、上位存在からの視点の有無、などなど、様々な要因が関係していると言えます。
相互動詞というのは複数の主体が、少なからず何らかの形で接触していることを前提としています。
接触するというその瞬間やその事実にだけ重きを置いている場合は、自視点主張型の他動詞になる傾向にある。
「meet」や「border」なんかがそうです。
これらは基本的に接触するという事実にだけ目を向けた表現です。
一方で、接触という行為そのものではなく、接触した後のことに重きが置かれている場合は、共同主体型の自動詞になることが多いです。
「fight」や「talk」なんかがそうです。
これらは主体らが接触した後にさらに共同で何かをやっています。
「mix」は接触の後のことではなく接触そのものに重きを置いてる表現ではあるんですが、動詞自体が上位視点を持つ二層構造になっているため、下位視点を維持するために下位次元型の自動詞となります。
これらの判断基準をもとに相互動詞における前置詞の有無について考察すれば、ある程度納得できる答えが得られます。
たとえば「kiss」という動詞。
これは単純に接触そのものの意味合いが強い。
なので前置詞は要りません。
それにキスといっても必ずしも唇同士とは限りません。
唇と頬の接触を意味するキスだってあります。
そうなってくると唇同士のキスとは違って、相互性はかなり低いと言えます。
The man kissed his daughter on the cheek.
[その男性は我が子の頬にキスをしました]
「reunite」という動詞はどうか。
再会という行為は接触の後ではなく接触の瞬間そのものに重きを置かれています。
そういった観点から言うと前置詞は要らないはずです。
しかし「reunite」には再会するという意味だけではなく、再会させるという上位視点の表現も兼ね備えています。
そのため、誰かを再会させるのではなく自分自身が再会するという下位視点を維持するために前置詞を伴います。
再会する両者は共に上位存在からの影響を受ける同次元の間柄として、相互性があると言えます。
You will reunite with your father someday.
[あなたはいつの日か父親と再会するでしょう]
これを上位存在の立場から表現すると次のようになります。
Destiny will reunite him with his father someday.
[運命がいつの日か彼を父親と再会させるだろう]
「exchange」という動詞はどうでしょう。
交換するという行為は主体らの接触そのものを指しているのではなく、接触した後の行為を意味しています。
なので前置詞を伴います。
ただし、相互性があるのはあくまでも交換した相手に対してです。
交換した物に対しては相互性はありません。
主体からすれば交換した物は行為の対象に過ぎません。
交換した相手こそが、自分と同じ立場の共同主体と言えます。
なので前置詞が付くのは相手に対してです。
I exchanged phone numbers with Jessica.
[私はジェシカと電話番号を交換しました]
「coexist」という動詞はどうでしょう。
共存するという行為は、両者の接触を意味している動詞といえるでしょう。
しかし、「meet」や「border」と違って、接触するその瞬間やその事実にだけ重きが置かれているわけではありません。
接触した後の両者の関係に意味の重きが置かれています。
そのため前置詞を伴います。
Humans have coexisted with nature since time immemorial.
[人類は太古の昔より自然と共存してきました]
このように、相互動詞の前置詞の有無というのは、それなりに判断できるもんです。
ちなみに、接触という行為そのものに着目している場合は、なぜ前置詞を伴わずに表現するのか。
これは触れるという行為そのものにはさほど相互性がないとみなされているからです。
「触れ合う」なら相互性を見出すことはできますが、ただの「触れる」だと相互性があるとは言い難い。
触れ合っているのか、はたまた触れているのか、という判断は実は難しいもんなんです。
場合によっては、一方が触れた側で、もう一方が触れられた側、というように両者の立場に違いが生じる可能性もあります。
こちらは相手を認識しているが、向こうはこちらを認識していないかもしれない。
両者の間に相互性があるかどうかは本人たちが決めることで、傍から判断するようなことではない。
そのため英語では文法上、接触を意味する行為はとりあえず一方的なものとして表現します。
接触という域を越えてさらに相手と関わったときに、相手との間に相互性が生まれる可能性が出てきます。
なので、接触だけを意味している行為なら自視点主張型、接触にプラスアルファの意味がある行為なら共同主体型で表現することになります。
「mix」などの二層構造の動詞は、たとえただの接触であっても、下位視点を維持するため、また上位の立場から操作されているという点で両者の間に相互性が生まれるため、相手に対して前置詞「with」を伴います。