前置詞「on」は「接触」という意味を持っています。
そこでこんな言い回しがあります。
I deeply apologized to her for having an affair on my knees.
[私は浮気のことで彼女に膝をついて謝った]
「on one's knees」で跪いている状態を表すことがあります。
これは、膝と地面の接触を表しているわけですね。
西洋には膝をつくことで謝意の深さを示す文化に馴染みはないんでしょうが、日本人ならしっくりくる文章ですね。
跪くといいう意味では他にも「kneel」という動詞があります。
She was kneeling in prayer when I entered the church.
[私が教会に入ると、彼女が祈りの中で跪いていた]
「kneel」という動詞とは別に、「on one's kneel」で「膝をついた状態で」という修飾語区を作ることが出来るわけです。
それと同じような原理で、「on all fours」というのもあります。
Please get down on all fours.
[四つん這いになってください]
「on all fours」で両手両足の全四つが地面に接触している状態、すなわち「四つん這い」を表します。
「on one's knees」にそれと対応する動詞「kneel」があったのと同様、「on all fours」にもそれっぽい動詞があります。
「crawl」です。
My baby can still only crawl.
[うちの子はまだハイハイができるだけですよ]
「crawl」は両手足を地面につけるというよりも、どちらかというと、腹ばいになってのそのそ進むという意味合いが強いです。
赤ちゃんのハイハイも英語ではこの動詞を使うことがよくあります。
これらの「on」の使い方からわかるように、前置詞「on」が支えるというニュアンスを生み出すことがあります。
「on one's knees」にしろ「on all fours」にしろ、己の体を支えているわけです。
「on」は接触を意味しますが、何かに接触するということは、接触することによってそいつに支えてもらうという状況が生まれるわけです。
My bike runs on electricity, so it's earth-friendly.
[私のバイクは電気で走るので、地球にやさしいですよ]
「~で」という手段や方法を表す前置詞として「by」や「with」が代表格みたいな顔をしていますが、この場合は「on」の方が適切です。
「by」も「with」も「on」も、どれも距離の近さを意味として含んでいますが、その中でも最も距離の近さ、とくに密接さが出ているのが「on」なんです。
そのため、しっかりと支えてもらっている感じを「on」だけが表現することが出来るんです。
電気によってバイクが走るということは、走るに当たって電気にがっつり支えてもらっている感じが強く、電気なしでは成立しない感が半端じゃないため、密接度合いの最も強い前置詞「on」が使われるわけです。
他にも前置詞「on」の支えている感じはこんな文章も作ります。
This novel is written based on facts.
[この小説は事実に基づいて書かれている]
事実というのに支えられてその小説は成立しているわけです。
だから「on」。
基づけるという意味の「base」という動詞は、支えるという意味の前置詞「on」と意味的に相性がいいです。
支えるというのは一方からの見方で、逆の方から見れば頼るという意味にもなります。
電気に頼って走る、事実に頼って小説を書く、てな具合に。
接触することで支えてもらうっていう感覚は、接触することで頼らせてもらうという感覚でもある。
支えてもらうという言い方にせよ、頼るという言い方にせよ、そこには相手との密接な距離感というのが存在します。
支えてもらっているという感覚が強ければ強いほど、頼っているという感覚が強ければ強いほど、接触の意味を持つ「on」の出番となるわけです。
We got into that school on his recommendation.
[我々は彼の推薦でその学校に入りました]
これもやはり彼の推薦なしにはそうはならなかったという思いから、前置詞「on」を使って支えてもらっている感じ、頼っている感じを表現します。
接触の「on」の発展形の支えるの「on」ですが、支える側にその気がなければ、それはもはやただの重荷になってしまいます。
なので「on」がそういった重さというか、圧というか、その手のニュアンスを表現することがあります。
接触するほど距離が近いということは、場合によっては圧に感じられるわけです。
She looks like to have many things on her mind these days.
[彼女は最近多くのことを心に抱えているように見えます]
ここでの「on」は、たくさんのことが彼女の精神に圧として接触してきている感じを表しています。
Amber turned on Johnny and glared at him.
[アンバーはジョニーを振り返り睨みつけました]
自動詞の「turn」に対しては普通「to」や「toward」で、その向いた先を表すんですが、圧力をかけるようにして対象の方を向くという感じを表したい場合は、このように「on」が使われます。
「to」なんかよりもよっぽど「on」の方が距離の近さ、すなわち圧を表現することが出来ます。
What impact will the new teacher have on the students?
[新しい先生は生徒らにどんな影響を与えるだろうか]
これもやはり、先生の持つ影響力が生徒たちにしっかりと重みを伴って接触することを意味しているので「on」が適切です。
最後に「on」の変わった使い方を紹介します。
He must be trying to cheat on you.
[彼はあなたをだまそうとしているに違いないわ]
「cheat」は本来他動詞です。
だますという行為は対象に働きかける意味合いが強いわけですから。
しかし、「cheat」が意味するだますという行為の中でも、何故だか浮気に関してだけはやたらと「on」を付ける人が多い。
それだけ浮気されるってのは精神的に圧がかかるってことを表したいのでしょう。
なので上記の文章も、「on」が付いていることから浮気のことを言っていることになります。